日本経済のバブル崩壊から10年余りが過ぎ たが、現在の日本は一体どうなっているのだ ろうか?  一昔前、モノは作れば作るだけ売れ、人材 は来る者は拒まず、といった風潮があった。  しかし現在は、顧客のニーズにより応えた モノのみが受け入れられ、人材もより能力の 優れた人へと淘汰されてきた。  会社自体も、昔は安心の拠り所とされてい たたはずが、今日では不安の種となっている 人さえいるのではないだろうか?  高度経済成長期の日本は、モノ創りで成功 してきた。しかし元々日本は資源大国ではな いので原材料を輸入に頼っているという点で、 諸外国からハンデを負っていると言える。  モノ創り以外にも商売になる、世界と勝負 できるものはないのだろうか?そこで注目さ れてきたのが「情報」である。  1990年代中頃から、インターネットが 世界中で広まり、この頃を境に情報産業が急 速に発展していった。  ソフトウェア開発や、各企業の経営に即し たシステムの開発、ネットワークの管理運営 等がビジネスとして成り立つようになってき た。個人や小規模な団体が独自で立ち上げる ベンチャー企業等が数多く設立され始めたの もこの頃からである。  情報技術における資源は、知識やノウハウ であると言える。その点において、日本は諸 外国にも決して引けを取っていないのではな いだろうか。  今後の日本にとって、情報技術、いわゆる 「IT(Information Tech nology)」は非常に重要なものとなっ てくるのではないか?  本文では、IT産業に従事する企業のあり 方、とりわけ新人の教育制度について、実体 験を交えつつ述べていきたいと思う。  一、IT業界の変遷  IT産業の主な商品はソフトウェアであっ たりシステムそのものであったりすることが 多い。それらにはソフトを動かすハードたる コンピュータの存在が必要不可欠である。そ こでまずはコンピュータの歴史について簡単 に述べてみたい。 元々自動計算機の開発がコンピュータの起源 であった。  使用される部品も真空管やトランジスタか らやがてIC、LSI等の登場によって、コ ンピュータの性能は飛躍的に進歩してきてい て、現在も尚その進歩は続いている。そのお 陰で初めは計算しか行えなかったコンピュー タが現在のようなマルチタスクが行えるよう にまでなった。  価格が非常に高価だった為ユーザも最初は 大企業の間だけで使用されていたのは巨大な 「オフコン(オフィスコンピュータ)」と呼 ばれるものが主流だった。  しかし近年、価格は下がり個人で買えるよ うになり、「パソコン(パーソナルコンピュ ータ)」として、一般家庭にも広まっていっ た。  それに伴い、ハードだけでなくソフトの需 要も増え、そこに市場が誕生したのである。  現在のIT産業において、特定の企業に対 してのシステム開発と不特定多数のユーザー に対してのソフトウェア開発の二種類が主流 となっている。これら二つの業種について述 べていく。  二、ソフトウェア開発  80年代半ばから現在に至るまで、家庭用ゲ ームの発達はめざましく、一時は不況知らず のゲーム産業とまで言われていた。ソフトウ ェアはパソコンだけのものでなく、ゲームも 含まれるようになり、またインターネットの 普及によってフリーソフトと呼ばれる、無償 で提供されるソフトが広まったこともあり、 ソフトウェアのユーザーの裾野はかなり広く なった。  企業に特注のシステムを提供するシステム 開発とは違い、ソフトウェア開発はユーザが 不特定多数の為確実に利益が出るという保証 がないので、開発にはそれ相応のリスクが伴 う。しかし、ソフトにもよるが概ね開発にか かるコストも時間もシステム開発のそれより 安く、開発コストさえ回収できれば、後は売 ったら売った分だけ利益となるというのも魅 力的な特徴である。  三、システム開発  システム開発は、顧客の要求を分析し、そ れに見合ったシステムを作り上げることが大 前提となる。ユーザはその顧客のみなので、 顧客となる企業の職種のより深い知識が必要 となる。よって只ソフトウェアを開発するだ けのプログラマよりも一歩踏み込んだ高度な 業務知識と交渉能力が要求される。こういっ た業務に携わる人を「SE(System  Engineer)」と呼ぶ。  システム開発にはたくさんのコストと時間 がかかるが、それに見合った報酬を請求でき る。しかし、かかった時間と出来上がったシ ステムの質が必ずしも比例するとは限らない。  各SEの能力には個人差がある。例えば、 Aという人物がある仕事を終えるのに3日か かるのに対し、Bという人物は1週間かけて 同じ仕事をこなしたとする。BはAと同じ仕 事をしたのに、Aの倍以上の料金を顧客に請 求できるか、というとそういう訳にもいかな い。顧客の立場から考えればできるだけ速く 安く仕上げてくれた方がいいからである。  SEには与えられた仕事を正確にかつ納期 までにこなす為のより高い技術力と知識が要 求されるのである。企業はこういった優秀な 人材を一人でも多く獲得するべきなのだ。 四、技術者の育成  会社を運営していく上で欠かせないのは人 材である。ここ数年の企業の雇用の少なさや リストラの慣行等、世間では今本当に必要な 人材の整理が求められているのではないか?  それでも毎年少なからず新しい人材を獲得 しているのは、新しい若い力の可能性に賭け ていきたい、という気持ちもあると思う。  入社以前に情報技術に触れたことがある人 とない人では、明らかにスタートラインが違 う。これは特に情報分野に限ったことではな いが。とは言え、例え新入社員が情報技術を ある程度習得していたとしても、顧客の業種 に合った業務知識というのは恐らく皆無であ ろう。つまり即戦力となり得る新入社員は、 中途採用でもない限り基本的には得られない と言ってよい。つまり戦力とするにはできる だけ速い内に教育する必要がある。例え新入 社員が勉強中であっても企業は給料を払わね ばらないので、新入社員を如何に教育し、い ち早く業務の最前線へと送り出し、給料分の 働きができるようになるかがカギとなるので はないか、と考えられる。  自分も今年の4月に入社したばかりの新入 社員なので、実体験を元に感じたことを述べ てみたいと思う。  五、新人研修を通して感じたこと  自分の職種はSEで、在学中も情報技術を 修めた。同期の内半分は情報以外の学部出身 者だった。これら情報系出身者と情報系以外 の人とでは、プログラムの経験があるかない かという大きな差があった。  入社して一ヶ月余りの研修期間が設けられ、 全員で同じカリキュラムの元で研修を受けた。  情報系出身者への要求の方が高かったとは 言え、基本的に全員同時進行であった為、情 報系出身者にとってはテンポが遅く感じられ、 またそれ以外の人にとってはついていくのが 大変だったと思う。  研修の題材として使われた言語は必ずしも 業務で使うものではなかった為、結果として 情報系以外の人たちはプログラミングの基礎 をある程度身に付け、SEとして大きくレベ ルアップしたが、情報系の人達にとって見れ ば単に新しい言語を一つ習得したに過ぎない。 無論到達地点は後者の方が上だが、レベルア ップの幅は前者の方が大きい。同じ期間同じ カリキュラムで勉強しても同等の効果が得ら れていない。それにいざ配属先が決まった時、 やはり研修期間中に学んだ言語の使用頻度は 低く、一番良く使う言語の勉強をしなければ いけなかった。  そこで、新入社員にとって適切教育とは一 体どのようなものであるべきか考えた。  六、望ましい教育  まず、会社にとって必要な人材はどんなも のかを明確にし、社員をどのレベルまで引き 上げるべきかを理解する。  それと社員の現在のレベルを把握し、どれ だけレベルを引き上げるべきかを理解する。  これら二つは、スタートとゴールをはっき り認識する上で重要だと思う。  また、一度に複数の分野を同時に進めるよ りは、一つ一つを確実にマスターして進めた ほうが効果的だと思う。  それから各職場に配属された際にすぐ業務 に役立つような実践的な内容を学ぶべきであ る。いくら勉強しても、それを生かす機会に 恵まれないのは実に惜しい。  後は個人の能力を把握し、得意分野を伸ば せるような個人に合った教育を実施した方が その人の武器を作れると思う。  七、まとめ  企業としては、良い人材を、沢山、速く、 できるだけ優秀に育てる必要がある。全員に 画一的な教育を行うのではなく、個人の能力 に見合った学習プランを立て、実行できれば それは企業にとってプラスになるはずである  先に、情報における資源とは知識とノウハ ウであると述べたが、それらを持ち合わせ、 扱うべきはまぎれもなく人間である。企業に とって優秀な人材とは、それだけで財産と言 えるのではないだろうか?その優秀な人材を 育てる行為こそ、大局的に見れば企業の発展 に大きく貢献していると言えるであろう。